視覚心理学が明かす 名画の秘密

「印象派の画家たちは写真の登場により、写真とは異なる表現を生み出したといわれる。だが、逆かもしれない。明るい日の写真には、人の視覚では気づかない光や影が強く写りこむ。ルノアールの絵のように、光の当たったジャケットは白光し、木洩れ日の下の顔には色ムラが映りこむ。」（本書95頁）。「この部分だけを切り取って見れば、アイボリーとキャメルと焦げ茶のボーダーでしかないのだが、私たちにはそれが透明な水に見える。（中略）。画家はどうやって透明な印象を生み出しているのだろう。」（本書109頁）。著者は、古今の名画を図版で紹介しながら、配光、輪郭線、画面構成など違いによる鑑賞者の受ける印象の差異を分かり易く解説して行く。静止画であっても時間や、躍動感がなぜ感じられるのかなど興味は尽きない。もちろん絵画鑑賞自体は、見たままに感じれば良いのだから、必須の知識ではない。だが、少しでも絵を描いたり、写真を撮ったことのある人には、多くの発見があると思う。本書を読んだ後で、パソコンの写真編集ソフト（Corel PaintShopProX8）で、自分で撮影した写真をトリミングしたり、左右反転したり、明るさをハイキーやローキーに変えたりして検証して見た。納得の結果であった。小生は小学生～大学卒業時まで油絵をならっていたのだが、中学に入ると、名画の模写や、写真からの描き起こしを散々やらされた。その意味が本書を読んでみると良く解かる。また、全画面の石壁や塗壁で、質感、重量感を出しかねていると、先生の加筆でたちまち解決した理由も理解できた。（余談ですが、絵描きにならなかったのは正解でした。）