新書743北斎漫画 (平凡社新書)

本書のコンセプトは、このページの上の「商品の説明」に上手く紹介されている。右によると、本書は「これまで絵手本と考えられてきた」ところの『北斎漫画』について、「戯画・諷刺画の要素を多分に含み持ち、日本マンガの原点に位置づけられる」と捉え、「コマ表現や吹き出し、キャラクター設定など、北斎の先駆的な技法に着目しながらその豊饒なる世界を徹底解説」したものと言うことができる。新書版にも関わらず「図版１５０点」を収録しているが、テキスト解説と図版のレイアウトに物理的な限界があって、行きつ戻りつの煩瑣な側面も散見される。ただ新書版という物理的制約上、過度にレイアウトの整合を求めるのは無理があるかもしれない。構成・内容は、同前上「登録情報」の最下段の「目次を見る」をクリックすれば概略が表示されるので、本稿では取り上げない。前叙のように、本書は「十五編」が明治期（１１年）まで刊行された『北斎漫画』（第１章）について、その「日本マンガの原点」としての特質、即ち「コマ表現や吹き出し、キャラクター設定など、北斎の先駆的な技法」をクローズアップするもので、収録図版も右のような特性・特徴の観られる作品、ストーリー性や風刺性の強いもの（第３〜７章など）、そして他者作品から影響を受けたまたは影響を与えた作品など（第４章「狂画苑」、第７章歌川広景作品ほか）、北斎以外の関連図版も収録し考察を展開する。個人的に興味を惹かれたのは、作者別の「吹き出し」の描写の変遷であり、歌川国芳や歌川芳藤の作品では体全体や各部から発する吹き出しと吹き出し外の台詞が特徴的であるが、北斎漫画では頭部から発するものが掲示されている。著者はこの北斎漫画における頭部からの吹き出しを「珍種」とするが、当該作品は何れも登場人物の“夢のイメージ化”であり、現代漫画に通底する描写手法に近似するもので興味深い作品の１つだろう。全体に『北斎漫画』の独自性（漫画としての先駆性）に焦点を当ててコンセプトを明確に打ち出しており、実証的客観的な筆致が窺え読みやすい一冊である。